ルナロッサ

谷崎潤一郎は小説「陰翳礼讃」の中で、「闇」を条件に入れなければ漆器の美しさは考えられない。昔から漆器の肌は黒か、茶か、赤であって、それは幾重もの「闇」が堆積した色であり、周囲を包む暗黒の中から必然的に生まれたもののように思える。漆器は野暮くさい、雅味のないものにされてしまっているが、それはひとつには採光や証明の設備がもたらす「明るさ」のせいではないか、あのピカピカ光る肌のつやも、暗いところにおいてみるとそれが燈火の穂のゆらめきを映し、静かな部屋にもおりおり風のおとずれのある事を教えてそゞろに人を瞑想に誘い込む。と述べている。

この漆の家具「LUNA ROSSA」のコンセプトは地球温暖化により溶解する氷河、消える砂浜、乾燥する大地、くずれる山野、異常気象による災害発生等の私の一連のアンチテーゼ「THINK NATURE」の造形である。暗黒の天空、海又は湖に浮かぶ赤い月と山脈の構成は静寂な美しい月夜に見え隠れする自然環境崩壊の不吉な予感を「赤い月」に見たてている。まさにこの「赤い月」の家具は谷崎流の陰翳礼讃を引用した造形なのである。暗い環境の中で発揮される漆の美はエコロジー時代にふさわしく、その価値が再考される事を願っている。

プロダクトデザイナー 梅田正徳

Dieter Rams  
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